第3回研究プロジェクトシンポジウム

「eコミュニティ・プラットフォームの現在と未来 
  ~「知」と「絆」で高める地域防災力~」― 2010年12月9日(木)開催

開催報告

12月9日に第3回研究プロジェクトシンポジウムを開催しました。
ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

発表内容

<午前の部>

1. eコミュニティ・プラットフォームのコンセプトと実証実験の概要
-地域コミュニティの自治とリスクガバナンスの視点から-

PDF 7MB
報告者 : 長坂 俊成(防災科学技術研究所 ・主任研究員)
       李 泰榮(防災科学技術研究所・研究員)

2.  分散相互運用環境に対応したeコミュニティ・プラットフォーム2.0の機能と開発計画-地域コミュニティのソーシャルウェア、SNS、相互運用Web-GISなどの統合的オープンソースとして-
PDF 3MB
報告者 : 臼田裕一郎 (防災科学技術研究所・主任研究員)
       田口 仁 (防災科学技術研究所・研究員)

<午後の部>

1. e防災マップを活用した地域防災の新たなアプローチ
PDF 1.5MB
報告者 : 須永洋平 (防災科学技術研究所・研究員)

<ポスター>

e防災マップコンテスト(PDF 1.1MB)

◆ eコミウェアポスター

開催案内

開催趣旨

 不確実性を孕む災害リスクに社会全体で立ち向かうためには、地域社会の多様な主体が協力・連携して災害リスクの軽減を図る「リスクガバナンス(協働型防災社会)」の高度化が不可欠となります。リスクガバナンスを高度化するためには、防災に関する専門家の知識や地域固有の実践的な知恵など、さまざまな「知」の統合が不可欠となります。加えて、平常時の地域コミュニティの自治や、新たな公共を担うNPOや事業者、行政などとの市民協働の過程で形成される地域社会の多様かつ重層的な「絆」が、災害時のセーフティーネットとして機能する「新たな地域防災の戦略」が求められます。

 そこで、当研究所では、「知」の統合と「絆」の形成を促進し、平時の地域コミュニティの自治や地域経営を支援するとともに、地域防災の実践的活動を支援するための情報基盤として「eコミュニティ・プラットフォーム」の研究開発に取り組んでいます。

 本シンポジウムは、「eコミュニティ・プラットフォームの現在と未来-「知」と「絆」で高める地域防災力-」と題して、第1部(午前)は、eコミュニティ・プラットフォームの開発コンセプトや既にオープンソースとして公開中のシステムの紹介と今後のバージョンアップの計画、さらに、同プラットフォームを用いた全国各地の取り組みの概要を紹介します。

 第2部(午後の前半)は、同プラットフォームを利用して実施した「e防災マップコンテスト」の受賞作品を具体的に紹介しながら、シンポジウム参加者の皆様に実際に同プラットフォームを体験していただく参加型セミナーを開催します。

 第3部(午後の後半)では、住民組織やそれらの活動を補完するNPOや社会福祉協議会、コミュニティFM局の方々を迎えたパネルディスカッションを実施し、来場者やインターネットの参加者と共に、平時の地域コミュニティの自治や地域経営、地域の魅力を高める地域プロデュースの実践、さらには、地域の災害リスクガバナンスの高度化の視点から、同プラットフォームの利活用の可能性や社会システムとして運用上の課題について討論します。

 本研究開発は、政府の総合科学技術会議が府省連携で推進している社会還元加速プロジェクトのひとつに位置づけられています。

開催概要

日時 2010年12月9日(木)10:00~16:30 (開場 9:30)
会場 東京国際フォーラム ホールD5 (東京都千代田区丸の内3丁目5-1)
主催 独立行政法人防災科学技術研究所
参加費 無料
対象 どなたでもご参加いただけます。
特に行政(地域防災、市民自治・協働、コミュニティ政策、情報政策、企画、まちづくりなどのご担当)、地域コミュニティ(自治会や地域経営を担うコミュニティ組織)、NPOはじめとする市民活動団体や中間支援団体、地域企業、コミュニティ放送局、社会福祉協議会などの方々のご参加を歓迎いたします。
参加申込 終了しました

Ustreamによる動画配信

試験的にUstreamによるリアルタイム動画配信を行います。
配信サイトはこちらです。
お断り:会場の通信環境によっては良好な品質で配信できない可能性がありますので、ご了承ください。

Ustreamの動画配信サイト

シンポジウムのチラシ

  → シンポジウムのチラシ(FAX送信票付き)

プログラム

 午前(第1部) 10:00~12:00「災害リスク情報プラットフォーム研究プロジェクトの展開」
10:00 開催のご挨拶
10:05-12:00

1. eコミュニティ・プラットフォームのコンセプトと実証実験の概要
-地域コミュニティの自治とリスクガバナンスの視点から-

報告者 : 長坂 俊成(防災科学技術研究所 ・主任研究員)
      李 泰榮(防災科学技術研究所・研究員)

2 分散相互運用環境に対応したeコミュニティ・プラットフォーム2.0の機能と開発計画
-地域コミュニティのソーシャルウェア、SNS、相互運用Web-GISなどの統合的オープンソースとして-

報告者 : 臼田裕一郎 (防災科学技術研究所・主任研究員)
      田口 仁 (防災科学技術研究所・研究員)

 午後(第2部) 13:30~15:00 eコミュニティ・プラットフォーム体験セミナー
-地域被害想定・防災マップ・災害リスクシナリオの作成を通じた実践事例から-

1. e防災マップを活用した地域防災の新たなアプローチ
報告者 : 須永洋平 (防災科学技術研究所・研究員)

2. eコミュニティ・プラットフォームの利用体験
来場者の方々に、eコミュニティ・プラットフォームをしていただきます。PCをお持ちの方は会場でネットワークに接続してご自身の端末からeコミを体験することができます。PCをお持ちでない方には、会場でご用意いたしますが、数に限りがございますのでご承知おきください。
インストラクター : 岡田真也 (防災科学技術研究所・研究員)

15:00-15:10 休憩(10分)

 午後(第3部)15:10-17:00 パネルディスカッション:
 利用者から見たeコミュニティ・プラットフォームの展望と課題
 -地域被害想定・防災マップ・災害リスクシナリオの作成を通じた実践事例から-
15:00-17:00

eコミュニティ・プラットフォームは、コミュニティの自治や地域経営、リスクガバナンスを支える統合的なWebシステムとして開発されました。本プラットフォームは、国、自治体、事業者、NPOほか営利・非営利を問わず無償で利用できるオープンソースソフトウェアとして既に公開され、利用者と開発者が一体となったオープンソースのコミュニティを形成し、開発技術や利用ノウハウの交流を行いながら成長しつつあります。
そこで、本パネル討論では、地域コミュニティの自治や地域経営、さらには、NPOやコミュニティFMなどの地域メディアによる地域プロデュースの視点から、平時の地域社会の知の統合と絆の形成を通じて、防災を含む包括的な地域課題を解決し、地域の魅力を高めるeコミュニティ・プラットフォームの活用方策について、現場で活用されている方々をお迎えして議論いたします。

パネリスト(順不同・敬称略・予定)

  • 苅谷 由紀子(つくば市社会福祉協議会 地域福祉グループ グループ長)
  • 天野 竹之(NPO法人愛知ネット 代表)
  • 木ノ下 勝矢(NPO法人レスキューサポート九州 代表)
  • 麓 憲吾(NPO法人ディ! あまみFM 代表)
  • 増田 和順 (ラヂオつくば 代表取締役)
  • 堀 千鶴 (藤沢市六会地区地域経営会議委員 六会地区自治連副会長)
  • 垣谷吉彦(兵庫県佐用町役場 企画防災課 まちづくり防災室 係長)

コーディネーター : 長坂 俊成(前掲)

17:00 閉会のご挨拶

パネルディスカッション要約

テーマ:「利用者から見たeコミュニティ・プラットフォームの展望と課題」

<パネリスト> 順不同、敬称略
  • 苅谷由紀子(つくば市社会福祉協議会 地域福祉グループ グループ長)
  • 天野竹行(NPO法人愛知ネット代表)
  • 木ノ下勝矢(NPO法人レスキューサポート九州代表)
  • 麓 憲吾(NPO法人ディ! あまみFM代表)
  • 増田和順(ラヂオつくば 代表取締役)
  • 堀 千鶴(藤沢市六会地区地域経営会議委員 六会地区自治連副会長)
  • 垣谷吉彦(兵庫県佐用町企画防災課 まちづくり防災室 係長) 

<コーディネーター>
  • 長坂 俊成(独立行政法人防災科学技術研究所 主任研究員)


地域をプロデュースするという考え

長坂:地域を強く、魅力的にすれば自ずから防災力は付いてきます。そのために必要なのが、複数のコミュニティが協働する「自治の戦略」、住民主体の「地域の経営」、魅力を引き出す「地域のプロデュース」という考え方です。パネルディスカッションでは、こうした視点に立って、地域の知を統合し、絆を重層的に作る戦略について日頃、現場で取り組んでいる方々や会場の意見を交えて考えます。まず、一見すると防災じゃない取り組みとして、愛知ネットの「愛ファザWALK」をご紹介下さい。


天野(愛知ネット):「愛ファザWALK」( 注1)は、子供が成人の半分の10歳に達したら父子で旧東海道を歩いて絆を深めようと呼びかけ、2010年度から始まったイベントです。昨年(2010年)9月上旬に実施し、参加者は愛知県岡崎市から名古屋市のテレビ塔下まで約50キロを、2日にわたって歩きました。ただ歩くだけでなく、応援したい父子にネットで寄付投票できる仕組みを取り入れ、集まった募金はそれぞれの父子からNPOに寄付してもらうファンドレイジングイベント( 注2)です。父子が歩いている様子をeコミマップ上に表示し、会場の防災科研のブースで「今このへんを歩いているよ」というのを見てもらい、それが応援につながって、たくさんの寄付が集まりました。歩くコースは、災害時に名古屋から岡崎への良い帰路になるため、間接的に帰宅困難ルートが周知されたと思っています。


長坂:防災を目的としない親子の絆づくりの参加型イベントがNPOの支援と、帰宅困難時の訓練を兼ねたのですね。単体の地理情報システムではできなかったことが、分散相互運用という環境で、隣接する自治体のハザードマップや避難施設の情報をシームレスに利用することが可能になります。また、参加した親子がGPS機能付き携帯電話から「足が痛いよ」などのコメントや写真を投稿すると、即マップに反映される。ルート上のボランティアや自宅の家族からも応援メッセージも送っていただけるということが実現したわけです。市町村があらかじめこの国際標準に対応した環境でハザードマップや防災情報を公開していれば、住んでいる地域以外の情報を簡単に見ることができます。これと似た例が、ラヂオつくばの「つくばマラソン」( 注3)での取り組みです。


増田(ラヂオつくば):つくば市では毎年、「つくばマラソン」が行われ、1万人以上が参加します。ラヂオつくばは09年にこの大会の交通情報の実況中継を市から依頼されたのですが、小さな局なので、全コースに人を配置してレポートするのは無理です。そこで、開局以来3年近く、「eコミ」で情報交換し、月一回の会議で顔の見える関係を築いている市民レポーターに、使えるデバイスと参加できる時間で協力してほしい、と呼びかけたところ、当日、電話、メール、ツイッター、eコミのサイトなどで次々に情報が届きました。私たちはそれを仕分けしてパーソナリティに伝え、放送したのですが、大会本部からの情報以外、実際のレポートはすべて市民レポーターがやってくれました。電話やメールは地図と照合しなければどこの話か分からないが、eコミへの書き込みなら即座に場所が把握でき、「最終ランナーが通過したので、間もなく規制が解除になります」など、的確な交通情報を流すことができました。


コミュニティメディアのはたらき

長坂:マスメディアが被災地の状況を大都市圏に向けて「報道」するのに対し、被災地に必要な情報を放送するのがコミュニティFM( 注4)の役割です。2010年の奄美の豪雨災害( 注5)では、あまみFMが市民のメディアとして活躍しました。


麓(あまみFM):3年前、奄美大島に“島を伝えるメディア”として、コミュニティFMを立ち上げました。奄美大島は台風の常襲地帯なので、開局当初からできるだけ災害に備えようという心構えはありましたが、2010年10月20日の豪雨災害は、「土砂降りがやまない」という奄美でも初めての経験でした。20日朝から、リスナーが写メール等で冠水している状況をどんどんレポートしてくれまして、私たちが行政の交通情報をもとにアナウンスすると、リスナーがより具体的な情報を送ってくれる、リスナーからの問い合わせで、私たち局が何を届ければいいか気付かされる、という流れになりました。こうした関係性ができるのも、コミュニティFMがマスメディアと異なる役割を担っているからだと再認識し、被災地に情報と安心を届けようと発生から5日間、24時間体制で災害情報を放送しました。


長坂:役所との関係で、課題はありますか。


麓(あまみFM):島には奄美市と2町2村があるのですが、僕たちは島を一つの単位と考えて開局したので、コミュニティFMが市町村単位で区切られているのは、やりづらい面があります。開局2年目に奄美市と防災協定を締結し、島の北部と、今回、被害がひどかった住用地区に中継局を立てたので、被災地に情報が届きました。防災無線の代用として2010年1月に開局した宇検村のコミュニティFMにも、平時よりあまみFMの番組をネットしていることもあり、今回私たちの24時間の災害放送をネットしました。町村がそれぞれ独立した法人を設立してコミュニティFMを運営するのは大変なので、これを機に島の全域に私たちの放送が聞こえる手立てを探りたいと思っています。


長坂:同じく大きな水害に見舞われた佐用町( 注6)では「さよっち」という地域SNS( 注7)で日頃から地域の情報を共有しています。あの水害で「さよっち」はどのように活用されましたか。


垣谷(佐用町役場):佐用町はテレビ・ラジオの難視聴地域が多いため、町として06年から光ケーブルを整備し、インターネットの「さよっち」も一緒に立ち上げました。
佐用町は09年8月9日の深夜から、台風9号に伴う記録的な大雨が降り、死者18名、行方不明者2名を出しました。役所が冠水して通信機器が使えない状態で、非常に役立ったのが住民ディレクターの投稿でした。翌10日朝からそういう人たちが自主的に、車から被害の様子を撮影した映像などを「さよっち」に投稿し、全国に情報発信してくれたおかげで、「さよっち」を見た人から必要な物資が届き、災害ボランティアが来てくれました。町がやれることに限界がある中、まだ数少ない住民ディレクターをどうやって増やすか、一大事が起きたときどれだけ早くデータを流していただけるかが、今後の課題です。


長坂:大分のNPO法人・レスキューサポート九州の本拠地・中津市は福岡と大分の県境にあります。防災科研が奄美に災害調査に入った際、eコミのコーディネーター役をお願いしました。木ノ下さん、自治体の垣根を超えた情報共有や協力という視点でお話いただけますか。


自治体の枠を超える

木ノ下(レスキューサポート九州):中津市は大分県ですが、経済圏、文化圏は北九州と同じです。日頃は県境を行き来して生活の上で不都合はないが、行政エリアが違うゆえに、いろんな県境の壁にぶつかるんですね。両方の行政のすみっこなので、新聞、テレビの取材も少なく、災害時は情報がなかなか行きかわない。ならば公助、共助で行政区域を超えていこうと、ネットワークの必要性を語り続けて約30年になりますが、いつの間にか、ネットとワークが別々になって、ネットはあるがワークがない、という状況が出てきました。奄美の災害のときも、意外と防災のネットワークは途切れて行き着けず、高校の同級生などの錆びついていないネットワークが生きていた。九州は平時でも隣の県とのアクセスが悪く、災害で関門トンネルや関門大橋が壊れたら本州と断絶するので、どうやって県境を越えてつながるかは大きなテーマです。日頃からの錆びつかないネットワーク、実践的な活動ができる仕組み作りにeコミのようなシステムを生かしたいと、模索しているところです。


長坂:先ほどの地図(豊前地区)ですが、(山国)川の流域が複数の市町村にまたがり県境も越えています。こういうところで継ぎ目なくハザードの情報や地域の取り組みを共有できないと、地域が本当の意味で豊かになれません。防災科研は、そのための情報の利用を支援するプラットフォームを皆さんと一緒に作っています。
一方、全国的に、市町村の地域防災計画では、災害時にボランティアセンターの設置運営を社会福祉協議会に要請することになっていますね。


苅谷(つくば市社会福祉協議会):社会福祉協議会は、子供から高齢者、障がい者を含め、様々な活動をしており、つくば市社協も100を超える事業をしています。筑波小学校区では防災科研と協力し、防災ボランティア養成講座の一環として防災訓練と防災ボランティア養成講座を実施しており、09年は70人を超える修了者が誕生しました。社協がこのような活動をしていることを知らない人が多いので、私たちの持つ資源や支援のツールをわかりやすく提示しようと、老人福祉センターの支部や地区ごとのシルバークラブの結成状況等を入れ込んだeコミマップを作りました。作りながら、あらためて社協がたくさんの人と関わりをもっているのに、それを十分活用できていないと気付かされました。


ネットはあるが、ワークしていない

長坂:ネットはあるが、ワークしていない。これは大きな問題です。神奈川県藤沢市の六会地区では、ネットをどうやって形成し、それをワークさせるため、どのような工夫や取り組みをしていますか。


堀(六会地区):藤沢市は13区に分かれており、各区で地域経営会議を結成して地域自治に取り組んでいます。六会地区地域経営会議ではまちづくり計画に「駅前のにぎわい」を掲げており、「駅前が暗いので、ちょっと木をイルミネーションしてみよう」という話になりました。いざ取り組むと、電源はどこから取るのか、どこに許可をもらうのかなど、いろいろな問題が出てきたが、六会は一丸となって協力してくれています。こんな小さな問題提起から、地域の皆さんが地域について考えるチャンスが作れたらと感じています。
もともと六会地区はひとつひとつの自治会が力をもって、様々な事業展開をしています。連合会としては、それぞれのいいところを引き出し、パワーをどう活用するかが課題です。みんなが気楽に一歩踏み出せる、明るい仕掛けづくりをしていきたいですね。


長坂:ここまでのお話で、それぞれの取り組みと課題を共有できたと思います。3つの論点がありました。一つはネットがあるが、ワークしていない。「うちはまちづくり協議会に全団体が入っているからネットワークは大丈夫」と安心していたら、蓋を開けると、ネットされているだけで実際何かお願いしても全然動かないということが結構あります。これをどうするか。
もう一つは、子育てや環境や福祉や、地域の包括的な課題の中で防災を考えるアプローチです。たとえば、保育所の待機児童をファミリーサポートで預かる場合、家の耐震性がなく、子供が走り回るには危険なのをチェックせずに、預かり先として紹介している例はたくさんあります。一方で同じ地域に家具の固定を手伝う防災のNPOが一生懸命活動しているのに、互いの活動の優先順位が異なるために協働性が生まれない。様々な地域課題の中で問題解決をはかるには、地域の課題や資源を発見し、うまく結び付ける地域プロデューサーやディレクターの人材養成が必要じゃないか、というお話がありました。
3つめの論点は、初めの一歩です。自治会単位で意思決定しないと事が進まないとか、自主防災会で引き受けなければ新しい防災の取り組みができない、というと、なかなか地域に役立つ新たな取り組みの最初の一歩が踏み出せない。例えば、防災マップを使ってジグソーパズルをすると、防災と関係ない若いお母さんや子供がたくさん来て、結果的に防災について学ぶわけです。防災科研が防災ラジオドラマの制作を呼びかけ、愛知県岡崎市立竜南中学の2年生が「防災は関心ないけど、地域のドラマつくってみたい。それを地域にプレゼントしたい」と取り組んだのも、大事な最初の一歩です。このように誰でも気軽に初めの一歩を踏み出せるコミュニティの仕組み作りを考える必要があります。
この3つの論点に対し、会場から質問を受けて議論をさらに深めたいと思います。


要援護者支援の取り組み

会場:藤沢市で市民活動推進センターというNPOを支援するNPO法人の理事をしています。藤沢では社会福祉協議会のボランティアセンターと、我々のようなセンターがあり、両者の連携が課題です。社協がボランティア団体や他の市民団体とのネットワークをどうつなげているか伺いたいのですが。


苅谷(つくば市社協):つくば市社協はボランティア保険を取り扱っており、ボランティア活動をする方は、社協にボランティア登録をし、保険に加入します。現在、つくば市では120団体、約4,000人が加入しており、ボランティアセンターに登録した方は自動的にボランティア連絡協議会に入るので、社協の事業やボランティアセンター事業の場合は、みなさん協力できる仕組みはあります。
全国社会福祉協議会では、社協がボランティアセンターと市民活動推進センターの両方を兼ね備えなさいとしていますが、つくば市でも市民活動推進センターが別のNPOに委託されています。本来なら重なる部分を共有できればいいが、別々でも、つながっていても共有できる仕組みを考えなければならないと感じております。


長坂:NPOの中間支援組織として市民活動推進センターができ、そこでのボランティア登録と社協のボランティア登録が別々に行われ連携していないという傾向がありますね。愛知はいかがですか。


天野(愛知ネット):うちも市民活動センターを5か所で運営していますが、社協と施設を相互利用するなど、協働できるよう調整しています。また、インターネットのサイトで情報交換したり、社協、市民活動センター、企業の3者合同で防災講座をしたりしています。


会場:宮城県社会福祉協議会から来ました。どこの社協も、要援護者リストを苦労して作っていますが、eコミのようなシステムがあれば、日頃から要援護者や民生委員がどこにいるか把握でき、地図上に網を被せるように被災状況を照合することで、避難する際にはこの人を連れて、こういう経路で逃げればいい、というのが的確にわかるな、と思いました。県社協として、そういう仕組みを市町村社協に広げながら、一本化できないか考えています。佐用町の災害時要援護者に対する取り組みはどうなっていますか。


垣谷(佐用町役場):佐用町では災害時要援護者の全体計画はあるが、個別支援プランは策定できていません。今回の災害を機に作ろうとしていますが、町職員としては、どうしても個人情報保護法がネックになります。本人に同意いただいた上で、民生児童委員や社協、消防団、自治会、町で情報共有することになりますが、人によって個人情報の捉え方が違うので、なかなか理解されず、同意に至らない。同意されて情報を出したはいいが、要援護者Aを、BとCで助けると定め、もし災害時、BとCが不在でAが亡くなったら、BとCは生涯、負い目になるだろうという問題が出てきます。実際、09年の台風9号災害のとき、要援護者の方を背負って避難所に行った人が、「自分の家族をほったらかしにして、要援護者を背負って逃げた。家族が無事だったからいいが、家族の誰かが被災していたら、私は生きていけない」と、複雑な思いを語っていました。こうしたことから、佐用町としては、もうAをB、Cで助けるという特定をしない方がいいのではないか、地域としてその人を助けて下さい、という形の推進を、町としてやっていく必要があると考え、着手しております。


長坂:要援護者の問題はぜひ、あらためて考える機会を設けたいと思います。社協のコメントがあれば。


苅谷(つくば市社協):行政判断がないとできない部分で、右往左往しているのは確かですが、社協としてできるところをやっていくことが防災につながるし、新しい形で個人情報をどう取り扱うかも考えております。


ネットワークのための人材がカギ

長坂:では、ネットをワークさせるには、人材がカギになるという論点について、ご意見いただけますか。


会場:企業で保安防災の理事をした経験を生かし、市原市災害ボランティアネットワークで活動しています。企業を離れてみると、地域にはボランティアのスキルを生かすいろんな団体があるんですね。千葉県には、県災害対策コーディネーターという防災組織、総務省関係の上級セーフティリーダーのグループ、日本防災士会があり、どれも非常に高い防災のスキルを持った人がいらっしゃるわりには、なかなか協働できないジレンマを感じています。


木ノ下(レスキューサポート九州):私も防災士の資格を持っていますが、ネットされているかというと、されていない。九州の場合、東京などの既存のネットワークに入っても、ほとんど情報共有できないので、九州独自にネットするのですが、結局、何かあると動けない。私は元消防職員ですが、消防署などにいろんな情報がファクスで山積みになっても、そこから先に情報がいく仕組みがほとんどない、という状況はいっぱいあると思うんです。ある程度、情報の受け手側の防災に対する意識レベルを上げなければ、ネットワークになっていかないと感じ、あえて集まりにくい50歳くらいの男性をターゲットに、コツコツと働きかけているところです。


天野(愛知ネット):我々も災害救援をやってきて、ここ5、6年は行政と協働していますが、「何か違う」と感じています。行政は無関心層を気付かせ、理解させ、行動に結びつけ、それだけで地域防災力が上がるという直線的な発想があるようですが、人は子供のため、仕事のためということであれば、防災を意識しなくても動きながら勉強します。それが結局、まわりまわって、地域のためになり、地域防災力につながっていく。必要なのは、地域プロデュースの考え方であり、地域のいろんな人材を把握する地域プロデューサーです。人のマッチングができるようになると、どんどん地域がよくなると思います。


増田(ラヂオつくば):うちのラジオ局は株式会社なので、行政に宮仕えをしなくていい。公で免許をもらって電波を出しており、社会的に信頼性もあるので、うちの放送局を地域のハブにしようと取り組んでいます。うちは様々な番組を通して、学生から福祉、芸能のボランティアまで、週に約500人が出入りし、いろいろな人のつながりがあります。社協さんともずっと一緒に仕事をしていますが、たとえば、社協が災害訓練をする際、つくばは外国人が多いので、国際交流協会から通訳ボランティアを出してもらい、必要な情報は多言語で翻訳してラジオで流そうというアイデアが出たり、訓練の参加者をグループ別に分けたいという相談があると、たまたま局に来ていたサッカーチームの人が4色のゼッケンを貸してくれることになったり。社協はそのお礼に賞味期限が近い非常食用の乾パンや水を、練習中の栄養補給で使って下さいとサッカーチームにあげて、すごく喜ばれて。こういう相乗りこそ、地域のマネジメントとかコーディネートの本質じゃないかな。役所で市民レポーターを使おうとしたら、個人の信頼性とか契約とか、様々なハードルが出てくるが、ラヂオつくばが市民レポーターを情報ソースにして、ラヂオつくばの放送に出す場合は、責任は全部うちで持つ。公でもなく、完全に自由でもない立場を生かして、地域の人を混ぜ混ぜする役割を果たせたらいいな、と思っています。


長坂:「eコミ」を地域に取り入れようとしている新潟県柏崎市北条の市民レポーターの方、どうでしょう。


会場:北条で、コミュニティの防災関係を担当しています。いざ災害が発生したとき、本当に頼りになるのは「向こう三軒両隣」です。普段からそこの関係を保ち、行政や共助を組み合わせるのが災害に備える基本だと思います。


会場:北条は小さな地区で、今まで外の専門知はあまり入れず、地域知でやってきました。私自身、大きなことはできないが、この地域で生まれ育った強みで、地域の人材をよく知っており、適材適所ができるのが特技です。ただ、04年(新潟県中越地震)と07年(新潟県中越沖地震)の2度の震災を経て、防災科研さんが防災マップ作成などで外の新しい風を入れてくれました。06年には自主防災組織を全21町内会で立ち上げ、要援護者リストを整備しました。確かに最初はプライバシー、プライバシーと言われましたが、プライバシーより命が大事、いざとなれば地域で助けるんだという意識でみなさん、抵抗なくやって下さっています。組織が機能するかどうか、検証する意味で防災訓練にも取り組んでおり、09年と10年は子供たちが平日の昼間、災害にあったときにだれが助けるかをテーマに訓練しました。奄美の災害で子供たちの問題に切実に取り組まれたのを見て、ぜひ勉強させていただきたいと思っています。


麓(あまみFM):今回の災害時、住用町の各小中学校が携帯も一般電話も寸断され、孤立してしまい、子供たちが学校に閉じ込められました。私たちもその情報を把握して、住用町に中継局を増設したことにより、安心できるよう呼びかけながら24時間放送をしました。この経験を経て被災地でも奄美全体でも絆が生まれました。防災のため、と意識的に構えるより、日頃からお互いの存在や関係性を確かめ合うことが災害時に反映されます。地域プロデュースの立場の人は、仕掛けとして見えない向こうに「防災」の目標を掲げ、生まれ育った場所が楽しくて面白くてかっこいいな、と思えるきっかけを暮らしの中にたくさん作りながら、防災力を高めていければ、とイメージしています。


堀(六会地区):北条の被災地を視察したのがきっかけで六会は北条とお付き合いが始まり、今、六会の多くの住民が北条で作ったお米を食べています。ニュース等で「柏崎市」が出てくると、「北条じゃないよね」と、人が集まってきます。離れていても、日頃の活動が見えるから気になるのです。これを自分の地域に置き換え、日頃から互いが見える関係を作っていれば、いざというとき、心を一つに集まって、地域のために何かできるんじゃないか。行政に責任を押し付ける前に、市民としての責任を一人一人が果たし、自分たちの手で町を作っていくことが、防災という形で自分の身に返ってくると信じています。


長坂:防災の基本はやはり、地域の日頃の人間関係や協働の活動です。いろんな分野で、一見つながっているように見えて、実際は絆を活かせていない。もっと知恵を持ち寄って、その絆を生かせば、地域に魅力と元気が出て、防災力も高まります。そこにeコミがちょっとお役に立てることを、みなさんと一緒に垣間見ることができたと思っております。

注1:愛ファザWALK
ライブやダンスなどのイベントを楽しみながら、NPOの資金調達に寄与するファンドレイジングイベント「愛フェス」と、同時開催される。10歳前後の子供と父親が、いっしょに50キロを歩く。参加する父子が登録時に支援したいNPOを選ぶと、その父子に共感した人が寄付を寄せる。


注2:ファンドレイジング
募金や寄付などによる資金調達。


注3:つくばマラソン
晩秋につくば学園都市で開催される大規模なマラソン大会。筑波大学構内からスタートし、市民が健脚を競う。


注4:コミュニティFM 
FM用周波数を使用するコミュニティ放送局。放送エリアは市町村区域等に限定され、地域のきめ細かい情報を発信するとともに、災害放送等で地域に貢献する。


注5:奄美豪雨災害
鹿児島県奄美地方で2010年10月20日に発生した豪雨で、3人が死亡。洪水や土砂崩れ等で奄美市住用町の小中学校が一時孤立し、児童、生徒が帰宅できず、校舎などで一夜を過ごした。


注6:佐用町台風9号災害 
2009年8月の台風9号による豪雨で、自主避難中に用水路に流されるなど、佐用町で18人が死亡、2人が行方不明になった。


注7:地域SNS
SNSはソーシャル・ネットワーキング・サイト。地域SNSは、地域に住む人や、地域に関係のある人を対象に、ネット上で日記や掲示板を通して情報を共有し、コミュニティの活性化をはかるサービス。外部公開で地域の情報を全国発信する機能も担う。「さよっち」は、インターネットテレビの機能がついており、映像で外部に情報発信できる。