防災情報の統合解析・高度活用技術に関する研究

最新情報

最新情報

2020年7月3日~4日南九州における大雨における浸水エリアと浸水建物棟数(速報)

更新履歴

・令和2年7月6日16:00 初版

連絡先

・防災情報研究部門/国家レジリエンス研究推進センター 田口仁、平春
・水・土砂防災研究部門/国家レジリエンス研究推進センター 酒井直樹

概要

2020年7月3日から4日にかけて九州南部に大雨が降り、4日4時50分に熊本県と鹿児島県に大雨特別警報が発表され、河川の氾濫による浸水や土砂災害が発生しました。

初動期の災害対応では被害の全容把握が重要です。浸水した建物の数の推定は、被害を定量的に把握することが難しい初動期において役立つことが期待されます。

役に立つ情報プロダクツを生成する研究開発の一環として、国土地理院が公開している浸水推定図と、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による「だいち2号(ALOS-2)」が推定した浸水エリアに基づき、浸水エリアに入る建物棟数を推定した結果を自治体ごとにまとめた結果を速報として報告します。

なお、この内容は防災科研クライシスレスポンスサイトで公開しています。

建物棟数の推定には、NTTインフラネット株式会社のGEOSPACE電子地図の建物形状のポリゴンデータを使用しました。

国土地理院 浸水推定図

国土地理院では、収集した画像等と標高データを用いて、浸水範囲における水深を算出して深さを濃淡で表現した地図を作成しており、浸水エリアをGISデータで公開している(リンク)。

  • 球磨川流域球磨川(2020年7月4日20時作成)
  • 佐敷川及び湯浦川流域 芦北町周辺(2020年7月4日22時作成)

図1:浸水推定図「球磨川流域球磨川(2020年7月4日20時作成)」と
「佐敷川及び湯浦川流域 芦北町周辺(2020年7月4日22時作成)」(クライシスレスポンスサイトより)

図2:市町村別の浸水建物棟数の集計結果(クライシスレスポンスサイトより)

図3:市町村別の浸水建物割合(浸水棟数/全建物数)の集計結果(クライシスレスポンスサイトより)

熊本県球磨村は浸水建物割合15.6%、人吉市は20.4%となっており、浸水した建物の割合が高いことがわかる。

レーダ衛星だいち2号(ALOS-2)による浸水想定域抽出結果

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、レーダ衛星だいち2号(ALOS-2)を使用して緊急観測を行い、浸水エリアを抽出している(リンク)。

  • 7月4日13:14観測
  • 7月5日0:03(深夜)観測

図4:浸水想定域抽出結果(7月4日13:14観測と7/5 0:03(深夜)観測)(クライシスレスポンスサイトより)

図5:市町村別の浸水建物棟数の集計結果(クライシスレスポンスサイトより)

図6:市町村別の浸水建物割合(浸水棟数/全建物数)の集計結果(クライシスレスポンスサイトより)

熊本県錦町は浸水建物割合6.2%と、浸水した建物の割合が高いことがわかる。
一方、国土地理院の浸水推定図では対象外だった、あさぎり町、多良木町、湯前町、水上村に浸水した建物が抽出された。

浸水推定図とレーダ衛星を統合した浸水建物棟数の推定

浸水推定図は、特定の河川において地形情報、ヘリ情報、SNS情報を用いて推定している。一方、だいち2号による浸水想定域抽出結果は網羅性があるものの、ある時点を切り出した情報である。どちらも、最大の浸水エリアを網羅的に示しているわけではない。そこで、両方のデータを統合し、同様に浸水エリアに入る建物棟数を推定した。

図7:浸水推定図とレーダ衛星による浸水エリアを重ねた結果(さらに浸水想定区域も重ねた)
クライシスレスポンスサイトより)

図8:市町村別の浸水建物棟数の集計結果(クライシスレスポンスサイトより)

図9:市町村別の浸水建物割合(浸水棟数/全建物数)の集計結果(クライシスレスポンスサイトより)

データを統合したことで、錦町の浸水建物割合が6.6%となった。

さいごに

初動対応では被害の全容把握が重要です。国土地理院の浸水推定図、網羅性があるレーダ衛星による浸水エリア、ほかの情報を効果的に組み合わせ、浸水建物数や曝露人口の推定など、初動対応における被害状況の把握に資する情報プロダクツの研究開発を進めてまいります。